在庫切れの本当の損失は、売れなかった分の売上ではありません。検索結果から消えることで順位が下がり、再入荷しても元に戻すのに時間がかかることです。
数か月かけて積み上げた実績が、2週間の在庫切れで後退する。これを何度か繰り返すと、いつまでも売上が階段を上がりません。
この記事では、感覚での発注をやめて基準で回すための考え方を書きます。
発注点を計算する
必要な数字は3つだけです。
- 1日あたりの平均販売数
- リードタイム(発注してから、Amazonの倉庫で販売可能になるまでの日数)
- 安全在庫(読み違いに備える上乗せ分)
発注点 = 1日あたりの平均販売数 × リードタイム + 安全在庫
在庫がこの数を下回ったら発注する、というだけのルールです。
リードタイムを甘く見積もらない
ここを短く見積もると全部が狂います。中国から仕入れている場合、実際には次の工程が積み上がります。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 発注から生産完了まで | 15〜30日 |
| 検品・梱包 | 3〜7日 |
| 国際輸送(船便) | 15〜25日 |
| 通関・国内輸送 | 3〜7日 |
| FBA納品から受領・反映まで | 3〜10日 |
合計すると40〜80日になります。「だいたい1か月半」で回していると、繁忙期や連休で簡単に破綻します。
中国の春節(旧正月)は特に注意が必要です。前後2〜4週間は工場が止まるため、この時期をまたぐ発注は通常より大幅に前倒しする必要があります。
安全在庫の決め方
厳密な計算式もありますが、実務ではリードタイム中の販売数の20〜30%を上乗せしておけば大きく外しません。
1日10個売れていてリードタイムが60日なら、リードタイム中に600個必要です。安全在庫を25%とすると150個。発注点は750個になります。
販売速度とリードタイムを変えると、発注点は次のように動きます。安全在庫は25%で計算した仮の値です。
| 1日の販売数 | リードタイム | リードタイム中の必要数 | 安全在庫 | 発注点 |
|---|---|---|---|---|
| 5個 | 45日 | 225個 | 56個 | 281個 |
| 5個 | 75日 | 375個 | 94個 | 469個 |
| 10個 | 45日 | 450個 | 113個 | 563個 |
| 10個 | 75日 | 750個 | 188個 | 938個 |
同じ販売数でも、リードタイムが30日延びるだけで発注点は1.7倍近くになります。「思っていたより在庫を持たされている」と感じるときは、たいていリードタイムの実績が想定より長くなっています。 計算は発注量シミュレーターでも出せます。
1回に何個発注するか
発注点は「いつ発注するか」を決める数字で、「何個発注するか」は別に決めます。基本の形は次のとおりです。
発注量 = 1日あたりの平均販売数 × 次の発注までの日数(発注の間隔)
発注の間隔を短くすると1回の量は減り、在庫を持ちすぎにくくなります。その代わり、発注・検品・納品の回数と、そのたびにかかる送料や手間が増えます。間隔を長くすると逆です。仮に1日10個売れる商品で、発注の間隔を変えると次のようになります。
| 発注の間隔 | 1回の発注量 | 年間の発注回数 | 向く状況 |
|---|---|---|---|
| 30日 | 300個 | 約12回 | 国内仕入れでリードタイムが短い。在庫資金を抑えたい |
| 60日 | 600個 | 約6回 | 海外仕入れで、送料をまとめて下げたい |
| 90日 | 900個 | 約4回 | 最低発注数量が大きい。販売が安定している |
仕入れ先に最低発注数量がある場合は、その数を下回らないように間隔を調整します。最低発注数量が1,000個で、1日10個しか売れないなら、1回の発注で100日分を抱えることになります。この場合は在庫月数が3か月を超えるので、保管の費用と資金の寝かせ方を先に計算してから発注してください。
在庫月数で持ちすぎも防ぐ
在庫切れを恐れるあまり持ちすぎると、今度は保管料と資金繰りを圧迫します。ここは在庫月数で見ます。
在庫月数 = 現在の在庫数 ÷ 1か月あたりの平均販売数
目安は次のとおりです。
- 1.5か月を切ったら発注を検討
- 3か月を超えたら発注を止める
- 6か月を超えたら販売施策を考える(値下げ、広告、セット販売など)
在庫月数は、発注点と組み合わせて使います。発注点は「いつ発注するか」を決める数字で、在庫月数は「持ちすぎていないか」を見る数字です。片方だけで回すと、発注点どおりに発注しているのに在庫が積み上がる、という状態に気づけません。
仮に、1日10個売れる商品で在庫が900個あるとします。在庫月数は3か月。発注点が938個なら、この時点で発注の合図が出ています。発注点だけを見ていると、在庫月数が3か月を超えても機械的に発注してしまいます。 販売ペースが落ちている局面では、発注点を計算し直すのが先です。
長期在庫保管手数料の対象になる前に動かすのが原則です。手数料や保管料の金額はサイズ・時期・保管期間で変わるので、セラーセントラルの最新の案内と請求明細で確認してください。積み上がった在庫を減らす手順は在庫保管料を削減する手順にまとめています。
繁忙期は別枠で計画する
平常時の平均で計算すると、繁忙期に在庫を切らします。
- 自社商品の季節性を過去の販売データで確認する(何月に伸びるか)
- Amazonの大型セール(プライムデー、ブラックフライデー、年末年始)の時期を押さえる
- セール時は通常の2〜4倍を見込む商品もある
そして重要なのは、繁忙期の在庫はリードタイムを逆算して、その分だけ早く発注することです。11月に売りたいなら、リードタイム60日なら9月には発注が完了している必要があります。
保管料が上がる時期でもあるため、「早く入れすぎない・遅れない」の幅は意外と狭くなります。カレンダーに発注期限を書き込んでおくと、判断が遅れません。
切らしそうなときの応急処置
それでも切れそうになったら、次の手があります。
- 一時的に値上げして販売速度を落とす。在庫切れよりは、売れるペースを落として在庫を持たせるほうが順位への影響は小さくて済みます
- 一部を自己発送(FBM)に切り替える。手元に在庫があるなら、FBAが切れてもページを生かしておけます
- 広告を止める。在庫が少ないときに広告費を使う理由はありません
いずれも応急処置です。根本は発注基準の問題なので、落ち着いたら基準側を直してください。
発注基準があっても切らす、よくある失敗
計算式を作っても在庫切れが止まらないときは、式ではなく、式に入れている数字がずれていることがほとんどです。よくある失敗を4つ挙げます。
| 失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| リードタイムを予定のまま使う | 実際は60日かかるのに45日で計算し、15日分足りなくなる | 直近3回の発注の実績日数で置き換える |
| 広告を強めた月の平均を使い続ける、または使わない | 広告を止めた後に持ちすぎる/広告を強めた後に切らす | 広告を大きく動かしたら、その日から平均を取り直す |
| Amazon以外の販路の出荷を数えていない | 自社サイトや他の販路の出荷分だけ在庫が早く減る | 発注点は全販路の合計の販売数で出す |
| 発注してから納品までを見ていない | 発注は済んでいるのに、生産や輸送の遅れに気づかない | 発注中の在庫を「いつ届くか」付きで記録する |
特に3つ目は、FBA在庫を他の販路の出荷にも使っていると起きやすい失敗です。仕組みと注意点はマルチチャネルサービスの使いどころにまとめています。
もう1つ、Amazonが在庫の状態を評価する在庫パフォーマンス指標も、在庫切れと持ちすぎの両方で下がります。指標の読み方は在庫パフォーマンス指標の見方と改善を参照してください。
最低限これだけは記録する
複雑な在庫管理システムは要りません。スプレッドシート1枚で十分です。記録するのは次の項目です。
- SKUごとの現在庫数(FBA+手元)
- 直近30日の販売数
- 1日あたりの平均販売数
- 在庫月数
- リードタイム(実績値。予定ではなく、実際にかかった日数を更新していく)
- 発注点
- 次回発注予定日
記録したら、週に1回、次の順で見ます。
- 直近30日の販売数を更新し、1日あたりの平均販売数を出し直す
- 在庫月数が1.5か月を切っているSKUと、3か月を超えているSKUに印を付ける
- 現在庫が発注点を下回っているSKUを発注の候補にする
- 3か月を超えているSKUは、次の発注を止めるか、販売施策を検討する
- 発注中の在庫の到着予定を確認し、遅れがあれば発注点の計算に反映する
1回15分ほどの作業ですが、これを曜日と担当を決めて続けると、在庫切れの多くは事前に気づけるようになります。
リードタイムを実績で更新していくのがポイントです。予定日数のまま運用していると、いつまでも同じ理由で切らします。FBA納品の工程でつまずくと、この実績はさらに延びます。受領までの詰まりやすい箇所はFBA納品手順のつまずきどころにまとめています。
よくある質問
販売数が安定しない商品は、何日分の平均を使えばよいですか。 直近30日を基本にしつつ、広告を大きく動かした期間や、セールがあった期間は別に見ます。振れ幅が大きい商品は、平均ではなく「悪くない週の販売数」で発注点を出し、安全在庫を厚めに置くほうが切らしにくくなります。
在庫切れから復帰したあと、順位はどのくらいで戻りますか。 期間や商品によって差が大きく、一律には言えません。確かなのは、切れていた期間が長いほど戻りに時間がかかることです。復帰後は広告を平常より強めて販売数を戻し、価格を下げるのは最後の手段にしてください。
季節商品も同じ発注点で回せますか。 回せません。平常時の平均販売数を前提にした式なので、需要が数倍になるシーズン商品は別枠で計画します。立ち上がり日から逆算する方法は季節商品の在庫計画にまとめています。
発注点と在庫月数が食い違ったときは、どちらを優先しますか。 在庫が発注点を下回っているのに在庫月数は3か月を超えている、という場合は、販売ペースが落ちている合図です。まず直近の販売数で発注点を計算し直し、それでも発注点を下回るなら発注します。どちらかの数字を機械的に優先するより、食い違いの原因を先に確かめてください。
まとめ
- 在庫切れの損失は、売上よりも検索順位の後退が大きい
- 発注点 = 1日あたり販売数 × リードタイム + 安全在庫
- リードタイムは工程を分解して実績で持つ。春節と連休を織り込む
- 発注量は「1日の販売数 × 発注の間隔」で出し、最低発注数量で持ちすぎにならないか確かめる
- 在庫月数1.5〜3か月を目安に、少なすぎ・多すぎの両方を防ぐ
- 繁忙期は別枠で、逆算した発注期限をカレンダーに置く
まずは主力SKUだけでいいので、リードタイムの実績値を出してみてください。ほとんどの場合、思っているより長いはずです。
