売れない商品を持ち続けるコストは、思っているより大きいものです。保管料がかかり、資金が寝て、管理の手間が取られ、担当者の意識も分散します。

それでも撤退の判断は遅れます。仕入れたときの金額が頭にあるからです。この記事では、感情を挟まずに決めるための基準を書きます。

まず、埋没費用を切り離す

判断の前提として、ひとつだけ整理しておきます。

すでに払った仕入代金は、判断材料になりません。 100万円で仕入れた在庫も、10万円で仕入れた在庫も、これから持ち続けるかどうかの判断には関係ありません。関係するのは、これから発生する費用と、これから得られる金額の比較だけです。

「100万円かけたのだから、もう少し頑張る」は、判断を誤らせる典型です。頑張った結果さらに広告費が消えるなら、損失は増えます。

撤退を判断する4つの基準

次の4つを上から順に見ます。1つでも上の基準で「まだやれる」となれば、そこで止まって改善に戻ります。

基準1:改善の打ち手が残っているか

まず、やることをやったかを確認します。次のうち、手をつけていないものがあれば、撤退の判断は早すぎます。

  • カートを取れているか確認した
  • メイン画像を改善した
  • 箇条書きを5行埋めた
  • 属性欄を埋めた
  • キーワードを検索用語レポートから見直した
  • 価格を競合の帯の中に収めた
  • 除外キーワードを整理した

これらは在庫を追加せずにできる打ち手です。全部やって動かないなら、次の基準へ進みます。

基準2:転換率が構造的に低いか

ユニットセッション率(商品ページに来た人のうち何%が買ったか)を、同カテゴリーの競合と比べます。

セッションはあるのに転換率が明らかに低い場合、原因はページか価格か商品そのものです。ページと価格を直しても動かないなら、商品自体が求められていない可能性が高い。

逆に、転換率は悪くないがセッションが少ないだけなら、まだ打ち手があります。流入の問題は、広告とキーワードで動かせます。

転換率が低い商品は撤退寄り、セッションが少ない商品は改善寄り、という切り分けです。表にすると次のようになります。

セッションユニットセッション率読み取れること次にやること
少ない悪くない流入の問題。商品自体は求められている広告とキーワードで見せる回数を増やす
少ない低い材料が足りない。判断は早いまず流入を作り、数字が溜まってから再判断
十分ある悪くない数は出ている。採算の問題かもしれない原価と価格の構造を見る
十分ある低いページ・価格・商品そのもののどれかページと価格を直し、動かなければ撤退寄り

「十分ある」の目安は、直近30日で数百セッション以上を置くと判断しやすくなります。月に数十セッションしかない段階では、転換率のわずかな上下は偶然で動くので、数字を根拠にした撤退の判断には使えません。この場合は基準4の期間で切ります。

基準3:これから発生する費用と回収見込み

数字で出します。

これから発生する費用

  • 保管料(残り在庫 × 月額 × 売り切るまでの見込み月数)
  • 長期保管に対する追加手数料(該当する時期をまたぐ場合)
  • 広告費(売るために必要な分)
  • 管理の手間(金額にしにくいが、無視しない)

これから得られる金額

  • 残り在庫 × 現実的な販売価格 × 販売手数料等を引いた後の手取り

この2つを比べて、得られる金額のほうが小さければ、持ち続けるほど損失が増えます。

計算のとき、「現実的な販売価格」を希望的に置かないでください。直近3か月で実際に売れた価格を使います。

仮に、残り在庫200個・1個あたりの月額保管料20円・売り切るまで8か月かかる見込みだとします。保管料だけで200×20×8=32,000円です。ここに広告費が乗ります。一方で、売れた場合の手取りが1個800円なら回収は160,000円。この2つを並べて初めて、続ける意味があるかが見えます。「売れるはず」ではなく「何か月かけていくら払うか」で比べてください。

売れ行きの前提を変えると、答えがどう動くかも見ておきます。同じ200個を、月25個・月10個・月5個で売った場合です。広告費は1個あたり200円かかると仮定しました。

月の販売数(仮定)売り切るまで保管料の合計広告費の合計手取り合計差し引き
25個8か月32,000円40,000円160,000円+88,000円
10個20か月80,000円40,000円160,000円+40,000円
5個40か月160,000円40,000円160,000円±0円

売る速さが半分になると、保管料は倍になります。 同じ在庫・同じ手取りでも、月5個のペースでは差し引きがゼロに近づく。しかも40か月のあいだ資金が寝て、長期保管の追加手数料がかかる時期もまたぎます。金額は説明のための仮の置き方で、実際の保管料はサイズ・カテゴリー・時期で変わります。自社の実数はセラーセントラルの最新の案内と在庫レポートで確かめてください。1個あたりの手取りが出ていないなら、利益シミュレーター(損益分岐ACOS)に売価・原価・手数料率を入れると出ます。保管料そのものを下げる手は在庫保管料を削減する手順にまとめています。

基準4:期間

上の3つが判断できないほど数字が少ない場合は、期間で切ります。

新商品なら90日。 立ち上げから3か月回して、広告費を引いた粗利がマイナスのまま、かつ改善の傾向が見えないなら見直します。

既存商品なら、直近6か月。 6か月間、月次の粗利がマイナスなら撤退候補です。

期間で切るのは乱暴に見えますが、期限を決めておかないと永久に判断しないので、実務では有効です。

撤退を決めたあとの手順

決めたら、損失を最小にする順で動きます。

1. 広告を止める。 撤退が決まった商品に広告費を使い続ける理由はありません。ただし在庫を売り切りたいなら、値下げと組み合わせて短期集中で使う判断はあり得ます。

2. 値下げして売り切る。 保管料と処分費を計算し、「この価格までなら下げても処分より得」というラインを出します。そのラインまでは下げて構いません。

3. セット販売・別チャネル。 単品で動かないものを、他商品とのセットにする。あるいは他のモールや実店舗など、Amazon以外での販売を検討します。

4. 返送。 在庫を手元に戻します。FBA保管料は止まりますが、返送手数料がかかります。手元で売る当てがある場合の選択です。

5. 所有権の放棄(廃棄)。 最後の手段です。手数料はかかりますが、保管料が永久に止まります。

5つの選択肢を並べると、比べる軸がはっきりします。

処分の方法かかる費用戻ってくるもの向く場面
値下げして売り切る値引き分と広告費売価から手数料を引いた手取りまだ需要が残っている
セット販売組み替えの作業単品より高い単価主力商品と組み合わせられる
別チャネルで売る出品の手間と各種費用そのチャネルでの手取りAmazon以外に販路がある
返送して手元に戻す返送手数料保管料の停止手元で売る当てがある
所有権の放棄廃棄の手数料保管料の停止売る当てがない

在庫を寝かせたまま放置するのが、一番高くつく選択です。何もしないという判断だけは避けてください。下げ幅の下限は、価格の決め方と位置取りで出した費用の内訳から計算します。

撤退の記録を残す

撤退した商品は、記録に残してください。次を書いておきます。

  • 何を、いくつ、いくらで仕入れたか
  • どこまで打ち手を試したか
  • 最終的にどう処分し、いくら回収できたか
  • 振り返って、どの段階で気づけたか

この記録が、次の商品選定の材料になります。同じ理由で失敗する商品を、仕入れる前に弾けるようになることが、撤退から得られる一番大きなものです。

先送りしないための月次の見方

基準を決めても、見る日を決めていないと判断は先送りされます。月に一度、SKUごとに次の4つだけを並べる表を作ってください。作るのに時間はかかりません。

  • 直近30日の販売数
  • 1個あたりの粗利(広告費を引いた後)
  • 在庫の残り日数
  • 判定(続ける/打ち手を1つ試す/撤退候補)

この表で下から3件を「撤退候補」として、翌月に判断すると決めておきます。全商品を見直そうとすると手が止まるので、毎月3件だけを見るという形にすると続きます。

よくある失敗の型を3つ挙げます。1つめは、値下げで見かけの販売数を作ってしまう例です。売れた数だけを見ていると動いているように見えますが、広告費を引いた粗利がマイナスなら、売れるほど損失が増えます。判定に使うのは販売数ではなく粗利の額です。

2つめは、追加発注が判断より先に走る例です。「もう少し広告を当てれば動く」と考えて在庫を足すと、撤退の判断はさらに遠のきます。撤退候補に入れた商品は、判断が出るまで発注を止めてください。発注の基準そのものは在庫切れを防ぐ発注の基準に書きました。

3つめは、まとめて判断しようとして何も決まらない例です。数十SKUを一度に見直そうとすると、資料づくりで力尽きます。毎月3件に絞るのは、そのための仕組みです。どの商品から見るべきか整理がつかない場合は、無料の運用診断で広告・商品ページ・在庫のどこが弱いかを先に切り分けてください。

よくある質問

シーズン商品も同じ基準で判断してよいですか。 期間の基準は変えます。年に1回しか売れない商品を6か月で切ると、実質1シーズンぶんの実績しか見ないことになります。シーズン商品は「2シーズン続けて計画を下回ったら」のように、回数で区切ってください。シーズンごとの在庫の引き方は季節商品の在庫計画にまとめています。

赤字でも売上規模のために残す判断はありですか。 売上そのものが目的になっている状態は危険です。ただし、その商品が他の商品の購入につながっている、レビューや検索順位の土台になっている、といった説明ができるなら残す判断はあり得ます。説明できないなら、それは残したい理由ではなく、決めたくない理由です。

撤退した商品と同じジャンルは、二度と扱わないほうがよいですか。 ジャンルではなく、撤退した理由で判断します。転換率が低かったのか、原価構造で採算が合わなかったのか、流入を作れなかったのか。理由ごとに記録が残っていれば、同じ失敗の型だけを避けられます。利益が残らなかった原因の分け方は利益が出ない原因を5つに分けて特定する手順が使えます。

まとめ

  • すでに払った仕入代金は判断材料にしない。これからの費用と回収だけで決める
  • 打ち手(画像・箇条書き・属性・キーワード・価格・除外)を全部試したか先に確認
  • 転換率が低い=商品の問題で撤退寄り、セッションが少ない=流入の問題で改善寄り
  • 「これから発生する費用」と「これから得られる金額」を並べて比べる
  • 判断できないなら期間で切る。新商品90日、既存商品6か月
  • 処分は、広告停止 → 値下げ → セット・別チャネル → 返送 → 廃棄 の順
  • 放置が一番高くつく
  • 撤退の記録を残して、次の仕入れ判断に使う

撤退は失敗ではなく、資金と時間を次に回す判断です。基準を先に決めておけば、迷う時間も減ります。