売上を伸ばそうとすると、まず価格を下げる案が出てきます。ただ、定価を下げれば全部の注文で粗利が薄くなり、下げた価格が新しい基準になるので、戻すのも簡単ではありません。
もうひとつの道が、1回の注文でまとめて買ってもらうことです。買う人の数を増やすのではなく、1人あたりの購入個数を増やして客単価を上げます。
この記事では、まとめ買い割引を設計する手順を、決める順番どおりに説明します。
単価を下げるのと、まとめ買いを促すのは何が違うか
同じ「安くする」でも、効き方が変わります。
定価の値下げは、1個だけ買うお客様にも割引が適用されます。もともと1個買うつもりだった注文まで安くなるので、粗利は素直に減ります。
まとめ買い割引は、追加で買った分にだけ条件を付ける形です。1個で足りるお客様は定価のまま買い、2個以上必要なお客様だけが割引を受けます。配送や梱包のように個数が増えてもあまり変わらない費用を複数個で分け合える点も効いてきます。
向いているのは、次のような商品です。
- 使い切ったら買い足す商品で、先に買い置きしても困らない
- 色・サイズ・味などの種類があり、複数を試したくなる
- 1個あたりが小さく軽く、2〜3個が同じ箱に収まる
- 贈答や職場での配布など、複数個で使う場面がある
逆に、置き場所を取る商品、消費期限が短い商品、1世帯にひとつで足りる商品では、割引を付けても個数は伸びません。
何個目から割り引くかを先に決める
割引率より先に決めるのが、しきい値となる個数です。ここを間違えると、割引しなくても買われていた個数に、そのまま割引を付けることになります。
判断のもとになるのは、今の注文の個数分布です。管理画面の注文レポートから、1回の注文で何個買われているかを数えてください。
| 今いちばん多い注文個数 | 割引を始める個数 | 意図 |
|---|---|---|
| 1個 | 2個から | あと1個を足してもらう |
| 2個 | 3個から | 今の山より1つ上を狙う |
| 3個以上に散らばる | 3個と5個の2段階 | 上に伸ばす余地を残す |
考え方はどれも同じで、今いちばん多い個数より1つ上に線を引くことです。すでに2個で買われているのに2個から割り引くと、これまで定価で売れていた注文の粗利が減るだけになります。
段階を作るときは、2段階までにとどめます。3段階以上あると、お客様が計算に迷います。
割引率は「注文1回で残る粗利」で見る
まとめ買いの良し悪しは、1個あたりの粗利では判断できません。注文1回あたりに残る粗利の合計で比べます。
売価1,500円、1個あたりの粗利が450円の商品で、2個目以降を10%割り引く場合を考えます。数字は説明用の仮の値です。
| 注文の中身 | 受取額 | 割引額 | 注文1回の粗利 |
|---|---|---|---|
| 1個・割引なし | 1,500円 | 0円 | 450円 |
| 2個・2個目のみ10%オフ | 2,850円 | 150円 | 750円 |
| 3個・2個目以降10%オフ | 4,200円 | 300円 | 1,050円 |
1個あたりの粗利は450円から375円に下がりますが、注文1回では450円から750円に増えています。1個あたりの数字だけを見ると割引はいつでも損に見えるので、注文単位に置き換えてから判断してください。
そのうえで、上限を確認します。
- 割引後の1個あたり粗利が、原価と手数料を引いてまだ残っているか
- その粗利で、広告費を乗せてもまだ残るか
- 個数が増えたときに、配送区分や重量帯が変わって費用が跳ねないか
3は見落としやすいところです。2個が1つの箱に収まるうちはよいのですが、3個で箱が大きくなると費用の段が上がります。販売手数料率・FBA料金・保管料はカテゴリー・サイズ・時期・条件で変わるので、一般的な料率ではなく、セラーセントラルの最新の案内と自社の実数で確認してください。費用の内訳が整理できていない場合は、原価構造の分解から手を付けると計算が早くなります。1個あたりの粗利と損益分岐の線は、利益シミュレーターに売価・原価・手数料を入れると出ます。
2段階にするときの計算例と、しきい値を誤ったときの損
注文個数が散らばっている商品では、3個と5個の2段階にする設計が候補になります。上と同じ売価1,500円、1個あたりの粗利450円の商品で、注文全体に割引率をかける形を仮に置きます。
| 注文の中身 | 受取額 | 割引額 | 注文1回の粗利 | 1個あたりの粗利 |
|---|---|---|---|---|
| 1個・割引なし | 1,500円 | 0円 | 450円 | 450円 |
| 3個・全体を5%オフ | 4,275円 | 225円 | 1,125円 | 375円 |
| 5個・全体を10%オフ | 6,750円 | 750円 | 1,500円 | 300円 |
5個の段では1個あたりの粗利が300円まで下がります。ここに広告費が1個あたり150円かかっているなら、残りは150円です。段を深くするほど、1個あたりの粗利が広告費で消える線に近づくので、上の段の割引率は、1個あたりの粗利から1個あたりの広告費を引いても残る範囲で決めてください。
しきい値を1つ低く引いたときの損
失敗の大きさも、同じ形で計算できます。今いちばん多いのが2個の注文で、そこに「2個目10%オフ」を付けてしまった場合です。
- 2個の注文1回の粗利は、900円から750円に150円減る
- 月に2個の注文が100件あり、割引を付けても個数が変わらなければ、粗利は月15,000円減る
- これを取り戻すには、1個の注文が2個に変わる注文(粗利が450円から750円へ300円増える)が月50件要る
1個の注文が月に50件以上2個へ移る見込みがなければ、この設計は粗利を減らすだけになります。数字は説明用の仮の値なので、自社の注文個数の分布と粗利を当てはめて、しきい値を引く前に計算してください。
梱包・送料・在庫をそろえる
割引の設定だけ済ませて、届け方が追いついていない例をよく見ます。
箱に収まる個数を確認する
2個が1つの箱に入るなら、配送は1回分で済みます。ここが利益の源です。逆に箱が分かれると、割引だけ払って費用は2倍です。設定する前に実物を箱に入れて確かめてください。
送料の設定を合わせる
個数ぶんの送料を取る設定のままだと、まとめ買いの合計金額が高く見えて、割引の効果が打ち消されます。送料の組み立て方は送料込み価格の設計で扱っています。
在庫の減り方が変わる
1回の注文で複数個が出るので、在庫は今までより速く減ります。発注の間隔を変えないと途中で切れるため、まとめ買いの比率が上がってきたら1日あたりの平均出荷数を出し直してください。
ページで伝える
割引を設定しても、商品ページで「まとめて買うと得になる」ことが伝わらなければ個数は増えません。箇条書きやサブ画像で複数個を使う場面を見せ、買い置きに向く理由(保管しやすい、使用期限に余裕がある)も添えます。
効果の測り方と、やめる基準
始めたら、次の数字を導入前の同じ日数と比べます。
- 1回の注文あたりの平均購入個数
- 1回の注文あたりの平均金額
- 注文1回あたりに残る粗利
- 期間全体の粗利総額
- 返品率
上の2つが伸びていても、粗利総額が減っているなら設計が合っていません。よくあるのは、割引を始める個数が低すぎた場合です。もともと2個で買われていた注文が、そのまま割引価格に置き換わっただけになっていないかを確認してください。
返品率も見ておきます。必要以上に買わせる見せ方をすると、届いた後に返品され、まとめ買いで得た分が消えます。
やめる、または設計を変える基準は、次のように決めておきます。
- 2か月続けて、粗利総額が導入前を下回った
- 平均購入個数がほとんど動かなかった
- 返品率が上がった
期間を区切って試したいだけなら、まとめ買い割引ではなくクーポンのほうが止めやすい場面もあります。狙いが「客単価を上げる」のか「今の在庫を減らす」のかで、選ぶ手段は変わります。
よくある質問
まとめ買い割引とクーポンを同時に出してもよいですか。 重ねると想定より深い値引きになります。重ねる場合は、両方を引いた後に注文1回で残る粗利を計算してから設定してください。クーポン側の設計はクーポンの割引率と止める基準にまとめています。
セット商品として別のASINを作るのとどちらがよいですか。 在庫を分けたくないならまとめ買い割引、単品とは別の価格帯で戦いたいならセットのASINです。セットは検索結果で別の商品として並ぶので、単品の順位を食い合わないという利点もあります。ただし在庫を分けるぶん、欠品の管理は増えます。
何個目から割り引くかを後から変えてもよいですか。 変えられますが、変えるたびに前後の比較ができなくなります。最初の設定で4週間ほど回し、注文個数の分布が動いたかを見てから次を決めてください。動かす場合も、段階は2つまでに保つほうが判断が濁りません。
定期おトク便の割引とはどう使い分けますか。 定期おトク便は「同じ人に繰り返し買ってもらう」ための仕組みで、まとめ買い割引は「1回の注文の個数を増やす」ための仕組みです。消耗品で買い替えの周期がはっきりしているなら定期おトク便、周期が読めず買い置きされやすいならまとめ買い割引が合います。両方を出す場合は、重なったときに注文1回で残る粗利を先に計算してください。定期おトク便の設計は定期おトク便の使い方にまとめています。
まとめ
- 定価の値下げは全注文の粗利を削る。まとめ買い割引は追加分にだけ条件を付けられる
- 向くのは買い置きできる商品、種類を試したくなる商品、複数個が1箱に収まる商品
- 割引率より先に「何個目から割り引くか」を決める。今いちばん多い注文個数より1つ上に線を引き、段階は2つまでにする
- 良し悪しは1個あたりではなく、注文1回に残る粗利の合計で判断する
- 上の段の割引率は、1個あたりの粗利から広告費を引いても残る範囲にとどめる。しきい値を誤ったときの損も先に計算する
- 手数料率・FBA料金・保管料は条件と時期で変わるので、セラーセントラルの最新の案内と自社の実数で確認する
- 箱に収まる個数、送料の設定、在庫の減り方、ページでの見せ方をセットで整える
- 粗利総額と返品率を導入前と比べ、伸びなければ設計を変えるか止める
