原価や国際送料が上がって、今の価格では粗利が残らなくなった。それでも値上げは、売れなくなる不安から後回しにされがちです。
値上げで売上が落ちるかどうかは、上げ幅だけで決まるわけではありません。どこまで上げるかを数字で出し、刻んで上げ、上げた後の数字で判断する。この順番を踏むと、落ち込みを小さく抑えやすくなります。
この記事では、Amazonで既存の商品の価格を上げるときの手順を順番に書きます。価格をゼロから決める考え方は価格の決め方にまとめているので、あわせてご覧ください。
1. Amazon値上げ手順の出発点。上げる理由と守りたい粗利を決める
最初に、なぜ上げるのかを1行で書きます。理由によって上げ幅も、ページでの見せ方も変わるからです。
- 原価が上がった(仕入れ値、為替、国際送料、関税)
- Amazon側の費用が変わった(手数料、保管料、サイズ区分)
- 内容を良くした(内容量を増やした、素材を変えた、付属品を足した)
次に、守りたいのが粗利額なのか、粗利率なのかを決めます。値上げ後に目指す数字が決まっていないと、上げ幅の根拠が作れません。
上げ幅を出すときに見落としやすいのが、販売手数料が売価に比例してかかる点です。原価が上がった分をそのまま売価に足しても、足した分にも手数料がかかるので、粗利は元に戻りません。
説明用の仮の値で計算してみます。販売手数料を売価の10%、それ以外の費用は変わらないと置きます。
| 項目 | 値上げ前 | 原価上昇後(価格据え置き) | 値上げ後 |
|---|---|---|---|
| 売価 | 2,980円 | 2,980円 | 3,150円 |
| 原価(着地原価) | 900円 | 1,050円 | 1,050円 |
| 販売手数料(10%) | 298円 | 298円 | 315円 |
| その他の費用(配送・保管・広告など) | 1,182円 | 1,182円 | 1,182円 |
| 1個あたり粗利 | 600円 | 450円 | 603円 |
原価が150円上がったとき、粗利600円を守るには売価を約167円上げる必要があります(150円 ÷ 0.9)。
上げ幅を粗利から逆算する
この逆算は、手数料率が分かっていれば1つの式で出せます。必要な値上げ額 = 増えた費用 ÷(1 − 手数料率)です。1個あたりの費用が150円増えたときの上げ幅を、仮の手数料率ごとに並べます。
| 仮に置いた手数料率 | 必要な値上げ額(費用増150円) | 2,980円からの値上げ後 |
|---|---|---|
| 8% | 約163円 | 約3,143円 |
| 10% | 約167円 | 約3,147円 |
| 15% | 約176円 | 約3,156円 |
率が数ポイント違っても、必要な上げ幅の差は十数円です。上げ幅を左右するのは手数料率より、費用がいくら増えたかです。逆算に使う費用には、仕入れ値だけでなく国際送料・為替・FBA配送料・保管料の変動も1個あたりに直して足します。
数字は説明のために置いた仮の値です。手数料率・FBA料金・保管料はカテゴリー・サイズ・時期で変わるので、セラーセントラルの最新の案内と自社の実数で確認してください。費用の積み上げ方はFBA手数料を含めた粗利の計算、下げ方は手数料の見直しに、計算は利益シミュレーターにあります。
2. 競合の価格帯のどこに移るかを確かめる
目標の価格が出たら、同じ検索語で上位に出る競合の価格を並べ、値上げ後の価格がどの帯に入るかを確認します。
見るのは次の3点です。
- 今いる価格帯の中で、上寄りに移るだけか
- 帯の境目をまたいで、一つ上の帯に入ってしまうか
- 1,980円、2,980円のような、区切りの価格を越えるか
帯の中で上寄りに移るだけなら、影響は比較的小さく済みます。境目をまたぐ場合は、お客様の比較相手が変わります。上の帯の商品と並べられて、中身で見劣りしないかを確かめてください。
見劣りするなら、選択肢は2つです。帯の中に収まる価格で止めて、足りない粗利は原価や梱包の見直しで補うか、上の帯に見合う中身とページに改めてから上げるかです。
3. 一度に上げず、刻んで上げる
上げ幅が決まったら、一度に上げずに2〜3回に分けます。一度に大きく上げると、売れ行きが落ちたときに、どの価格から落ちたのかが分からなくなります。
2,980円から3,280円まで上げたい場合の刻み方の例です。
| 段 | 価格 | 期間の目安 | 次の段に進む条件 |
|---|---|---|---|
| 1段目 | 3,080円 | 2〜3週間 | ユニットセッション率が値上げ前と大きく変わらない |
| 2段目 | 3,180円 | 2週間 | 同上。粗利総額が値上げ前を下回っていない |
| 3段目 | 3,280円 | 2週間以上 | 維持するか、一段戻すかを決める |
1段目は3,000円の区切りを越えるので、期間を長めに取っています。1日に数個しか売れない商品は、2週間では数字がぶれます。判断に使える注文数がたまるまで待つのが基本です。
段数と1段の期間は、1日に何個売れているかで決めます。目安が次です。
| 1日の販売個数 | 段数の目安 | 1段の観測期間 | 1段でたまる注文数 |
|---|---|---|---|
| 1〜2個 | 2段 | 3〜4週間 | 20〜60件 |
| 3〜9個 | 3段 | 2〜3週間 | 40〜190件 |
| 10個以上 | 3段 | 1〜2週間 | 70件以上 |
注文数が少ないほど、日々のぶれを値上げの影響と読み違えます。幅は等分でなくてよく、区切りの価格をまたぐ段だけ幅を小さくすると、戻し先が1段で済みます。
刻んでいる間は、画像の差し替え、広告の大きな変更、クーポンの発行など、ほかの変更を重ねないでください。売れ行きが変わったときに、値上げのせいか別の変更のせいかを切り分けられなくなります。
内容を良くしたことが理由の値上げなら、その変化を先にページに出してから価格を動かします。内容量や付属品の違いがメイン画像や箇条書きで一目で分かる状態にしてから上げると、値上げの理由が伝わりやすくなります。
4. 上げる時期を選ぶ
同じ上げ幅でも、時期によって結果が変わります。避けたいのは次の3つです。
在庫が薄い時期。 値上げで売れ行きが揺れている最中に在庫切れを起こすと、順位が落ちたうえに高い価格だけが残ります。在庫に余裕があるときに始めてください。
大型セールやクーポンの直前。 セールやクーポンの参加条件には、過去の販売価格を参照するものがあります。直前に上げると、条件を満たせなくなったり、割引が小さく見えたりすることがあります。条件の内容は時期で変わるので、セラーセントラルの最新の案内で確認してください。上げてすぐ割引で下げて見せるような表示は、お客様の誤解を招くおそれもあります。
需要の波が大きく動く時期。 季節で売れ行きが落ちる時期に上げると、落ちたのが値上げのせいか季節のせいかが分かりません。需要が落ち着いている時期のほうが判断しやすくなります。
広告も合わせて見直します。値上げ後に転換率が少し下がると、同じ入札のままでもACOSは悪化して見えます。一方で、売価が上がった分だけ1個あたりの粗利が増え、許容できる広告費の上限も上がっています。値上げ後のACOSは、値上げ前の目標値ではなく、新しい価格で出し直した目標値と比べてください。
5. 上げた後に見る数字と、戻す基準
値上げ前と同じ長さの期間で、次の数字を並べます。
- セッション数(ページを見に来た数)
- ユニットセッション率(見に来た人のうち買った割合)
- 販売個数
- カートボックスの獲得率
- 粗利総額(1個あたり粗利 × 販売個数)
判断の軸は粗利総額です。販売個数が少し減っても、粗利総額が上回っていれば狙いどおりです。
| 結果 | 判断 |
|---|---|
| 販売個数がほぼ変わらず、粗利総額が増えた | 維持して次の段に進む |
| 販売個数は減ったが、粗利総額は維持か増加 | 維持。次の段に進むかは慎重に決める |
| 粗利総額が値上げ前を下回った | 一段だけ戻す |
| セッション数そのものが大きく減った | 価格より先に、順位やカートの状態を確認する |
戻すときは、値上げ前まで一気に戻さず、一段だけ戻して様子を見ます。一段戻して粗利総額が回復するなら、そこが今の商品とページで受け入れられる価格です。それでも回復しないなら、価格以外に原因がある可能性が高いので、表示・クリック・購入のどこで落ちているかを3段階で切り分けて確認してください。
戻す基準は、上げる前に書いておきます。上げた後に決めると判断が遅れがちです。
そのとき、数字で置くと迷いません。たとえば「粗利総額が値上げ前を2週続けて下回ったら一段戻す」といった形です。この水準は書き方の例にすぎません。回転の速さと粗利の厚みで線は変わるので、自社の実数から決めてください。
6. 値上げでつまずく4つの型
うまくいかない原因は、だいたい次のどれかです。
刻んでいる間に在庫を切らした。 値上げ直後は売れ行きが読みにくく、発注も狂いがちです。途中で切らすと、順位が下がったところに高い価格だけが残ります。発注点は早めに置いてください(在庫切れを防ぐ発注基準)。
値上げと同時に広告を絞った。 落ちた原因が価格なのか露出なのかを分けられなくなります。変更は1回に1つです。
上げ幅を1回で取りにいった。 落ち込んだときに戻す先が決まりません。刻んでいれば、戻す先は「一段前」で決まります。
上げた後の数字を見ていない。 粗利総額を並べないと、減った個数を1個あたりの粗利の増分が埋めているか分かりません(利益が出ない原因)。
よくある質問
値上げしたらカートが外れました。戻すべきですか。 すぐ戻す前に、外れた原因が価格かどうかを切り分けます。相乗り出品者がいる、他のモールでの売価と差が開いた、といった要因でも外れます。カートボックスが取れない原因の順番で確認し、価格が原因だと分かってから一段戻してください。
値上げの案内を商品ページに書くべきですか。 書く必要はありません。むしろ「価格改定のお知らせ」を先に出すと、駆け込みで売れた後に反動で落ちます。内容量や仕様を変えた場合だけ、変更点を仕様欄に書いておきます。
セール期間中に値上げしてもよいですか。 避けてください。セール価格の基準になる直近の販売価格や、割引の見え方に影響することがあります。条件は時期によって変わるため、セラーセントラルの案内を確認したうえで、セールの前後2週間は動かさないほうが判断も混ざりません。参加そのものの判断はセール参加の判断基準にまとめています。
在庫が少ないので、値上げで売れ行きを抑えたいのですが。 一時的に上げること自体はできますが、この記事の値上げとは別物です。在庫が戻ったら下げる前提なので、その数字は粗利の検証に使えません。効果を測るのは在庫が整ってからです。
まとめ
- 値上げの前に、上げる理由と守りたい粗利(額か率か)を決める
- 販売手数料は売価に比例するので、上げ幅は「増えた費用 ÷(1 − 手数料率)」で逆算する
- 値上げ後の価格が競合の価格帯の境目をまたぐなら、中身とページを先に整える
- 一度に上げず2〜3回に刻む。段数と1段の期間は1日の販売個数から決め、刻んでいる間はほかの変更を重ねない
- 在庫が薄い時期、セールやクーポンの直前、需要が大きく動く時期は避ける
- 判断の軸は粗利総額。下回ったら一段だけ戻す。戻す条件は上げる前に数字で書いておく
- つまずく型は、在庫切れ・広告の同時変更・一度に上げすぎ・上げた後を見ていない
