Amazon運用代行 目標を決める場面で、多くの事業者は「売上を伸ばしてほしい」とだけ伝えて契約します。代行会社も「売上を伸ばします」と答える。ここで話が終わると、半年後に食い違いが起きやすくなります。しかも実際に食い違いに気づくのは、もっと後です。売上は伸びたのに手元のお金が増えていない、と決算の時期に分かります。

原因は、何を約束の数字にするかで、代行側の打ち手が変わることです。売上を目標にすれば広告費を増やす方向に、ACOSを目標にすれば広告を絞る方向に動きます。どちらも約束どおりに働いた結果なので、代行会社を責めることもできません。

この記事では、売上・利益・ACOSを目標にしたときにそれぞれ何が起きるか、目標をどう組めば食い違いが起きにくいか、仮の数字での逆算、契約書への書き方までを順に書きます。以下の金額や率はすべて計算の形を示すための仮の数字です。自社の数字に置き換えて読んでください。

目標の数字で代行側の動きが変わる

まず、どの数字を目標にすると、代行側がどちらに動きやすいかを整理します。

目標にする数字代行側が取りやすい打ち手起きやすい副作用
売上(全体またはAmazon売上)広告費を増やす、値引き・クーポンを提案する利益率が下がる。広告をやめると売上が戻る
広告経由売上広告の配信量を増やす。指名検索にも広告を出す広告が無くても売れていた分まで広告経由に付け替わる
ACOS入札を下げる、売れる語だけに絞る売上の規模が縮む。新しい語の開拓が止まる
TACOS広告費を抑えつつ自然検索の売上を伸ばす短期では動きが遅い。立ち上げ期には合わない
利益(粗利・貢献利益)赤字の広告を止める、利益の出る商品に予算を寄せる計算に原価や手数料が要り、共有の手間がかかる

大事なのは、どの数字にも副作用があることです。1つの数字だけを約束にすると、その数字を良く見せる打ち手が選ばれ、他の数字が置き去りになります。

だから目標は1つに絞るのではなく、「主に追う数字」と「下回ってはいけない線」を組み合わせて置きます。

売上だけを目標にした場合の失敗例

ある程度よくある形を、仮の数字で書きます。月商300万円、広告費30万円の商品で「半年で月商500万円」を目標にしたとします。

代行会社は広告費を月80万円まで増やし、セールとクーポンを重ねて月商500万円に届かせました。約束は果たされています。ところが、値引き分と広告費の増加分を差し引くと、月の手残りは以前より少なくなっていた。こうした結果は、目標の置き方の問題です。

この場合、「月商500万円。ただし広告費は売上の12%以内、値引きを含めた粗利率は25%以上」のように下回ってはいけない線を添えていれば、代行側の打ち手は変わっていたはずです。

目標は3段で組む

食い違いを防ぐには、目標を3つの段に分けて置きます。

段何を置くか例(仮の数字)誰が責任を持つか
結果目標事業として欲しい数字半年後に月の貢献利益を60万円事業者と代行の共同
中間指標結果に向けて動いているかを見る数字TACOS 10%以下、広告ACOS 25%以下、主要語の順位代行側が主に持つ
作業目標代行側が毎月やること除外キーワードの更新を週1回、月1回の構造見直し代行側が全面的に持つ

結果目標は、在庫・価格・商品ページの状態にも左右されるので、代行会社だけで約束できる数字ではありません。ここを代行会社に丸ごと約束させようとすると、代行側は防御的な数字しか出してこなくなります。

中間指標は、結果目標に向けて動いているかを月ごとに確かめる数字です。各指標の見方はAmazon KPIの設計で10個に絞る方法を書いています。

作業目標は、代行側が完全に自分でコントロールできる部分です。結果が出ない月でも、作業目標が守られているかで「やるべきことをやっているか」は判断できます。

3段がつながっているかを確かめる

3段を置いたら、上から下へ「この作業をすると、この中間指標が動き、この結果に近づく」と説明できるかを確かめます。説明できない段があれば、その目標は飾りになっています。

たとえば結果目標が「貢献利益の増加」なのに、中間指標が「インプレッション数」だけなら、つながりが弱い。インプレッションが増えても利益が増えるとは限らないからです。

売上・利益・ACOSのどれを主に追うか

主に追う数字は、商品の段階で変わります。段階を無視して同じ数字を追わせると、立ち上げ期に利益を求めて広告が止まったり、成熟期に売上を求めて値引きが続いたりします。

商品の段階主に追う数字下回ってはいけない線理由
立ち上げ(発売〜3か月)広告経由売上、レビュー件数、主要語の順位損益分岐ACOSの上限、月の広告費の上限販売実績を作る時期。利益は後で取り返す前提
成長(3〜12か月)全体の売上とTACOS粗利率、広告ACOSの上限広告で取った順位を自然検索に移していく時期
成熟(12か月〜)貢献利益売上の下限、主要語の順位売上を守りながら、広告費を削って利益を厚くする時期

立ち上げ期の考え方は新商品の最初の90日、成果が出るまでの期間の目安は運用代行の成果が出る期間にまとめています。どちらも、最初の数か月に利益を目標にすると判断を誤りやすい、という点で共通しています。

ACOSを目標にするときの注意

ACOSは広告の効率を見る数字で、低いほど良く見えます。ただ、ACOSだけを約束にすると、売れることが分かっている語にだけ広告を出し、新しい語を試さなくなります。ACOSは下がるのに売上が伸びない、という状態です。

ACOSを使うなら「上限」として置き、主に追う数字は別にしてください。上限の置き方は、自社の損益分岐ACOS(これを超えると広告で赤字になる線)から出します。出し方はACOSの目標値の決め方で書いています。

仮の数字で目標を逆算する

目標の数字は、代行会社に出してもらう前に自社で一度逆算しておくと、提案を受けたときに妥当かどうかを判断できます。手順は次のとおりです。

  1. 半年後に欲しい月の貢献利益を決める(貢献利益=売上から原価・手数料・広告費を引いた額)
  2. 1個あたりの貢献利益(広告費を引く前)を出す
  3. 必要な販売個数と、許せる広告費を逆算する
  4. その販売個数が市場の大きさに対して無理がないかを確かめる

仮の条件を置いて計算します。

  • 売価 3,980円
  • 原価(着地原価)1,200円
  • 販売手数料・FBA手数料の合計 1,100円と仮定
  • 広告費を引く前の1個あたり利益:3,980 − 1,200 − 1,100 = 1,680円

手数料はカテゴリー・サイズ・時期で変わるので、セラーセントラルの最新の案内と自社の実数で確認してください。ここではあくまで計算の形を示すための数字です。

半年後に月の貢献利益を60万円にしたいとします。TACOS(広告費÷全体売上)を10%に抑えると仮定すると、1個あたりの広告費は約398円。1個あたりの貢献利益は1,680 − 398 = 1,282円です。

必要な販売個数は 600,000 ÷ 1,282 ≒ 468個。月商にすると 468 × 3,980 ≒ 186万円です。

項目仮の数字
1個あたり利益(広告費前)1,680円
TACOS 10%のときの1個あたり広告費約398円
1個あたり貢献利益約1,282円
月の貢献利益 60万円に必要な個数約468個
そのときの月商約186万円
そのときの月の広告費約18.6万円

ここまで出しておけば、代行会社から「半年で月商500万円」という提案が来たときに、「その売上で貢献利益はいくらになるか」「広告費はいくらまで使う前提か」を聞き返せます。自社の数字での計算は利益シミュレーターに売価・原価・手数料を入れると出せます。

TACOSを変えると目標はどう動くか

同じ貢献利益60万円でも、TACOSの置き方で必要な売上は変わります。

TACOS(仮定)1個あたり貢献利益必要な個数必要な月商
5%約1,481円約406個約162万円
10%約1,282円約468個約186万円
15%約1,083円約554個約221万円
20%約884円約679個約270万円

TACOSが高いほど、同じ利益を得るために必要な売上は増えます。代行会社が「売上を伸ばすために広告費を増やしたい」と提案してきたら、この表のどこに移る提案なのかを確かめてください。TACOSの考え方はTACOSとはで詳しく書いています。

契約書と提案書にどう書くか

目標は口頭で合意しても、半年後には双方の記憶がずれます。次の項目を、契約書か、契約書に添付する目標設定書に書いておきます。

  • 主に追う数字と期限:「6か月後の月の貢献利益」「3か月後のTACOS」など、何をいつまでに
  • 下回ってはいけない線:粗利率の下限、広告ACOSの上限、月の広告費の上限
  • 数字の定義:売上は税込か税抜か、全体かAmazonのみか、広告経由売上は何日以内の購入までか
  • 計算に使う原価と手数料:誰がいつ共有するか。変わったときの扱い
  • 見直しの時期:3か月目に目標を見直す日を決めておく
  • 代行側の責任範囲外の要因:在庫切れ、価格変更、商品ページの差し替えなど、事業者側の判断で動く要素

数字の定義は特に揉めやすいところです。「売上」と書いただけでは、税込か税抜か、返品を引くか引かないかで1割以上ずれることもあります。

契約書全体で確認すべき項目は運用代行の契約書で確認する10項目にまとめています。報酬を成果に連動させる場合の「成果」の定義は、成果報酬型とはで詳しく書いています。

「約束できません」と言われたら

結果目標の数字を代行会社に約束させようとすると、「市場の状況次第なので約束できません」と返ってくることがあります。これは不誠実な答えではありません。在庫・価格・競合の動きは代行会社の手の外にあるからです。

その場合は、結果目標は「目指す数字」として共有し、約束の対象は中間指標の上限・下限と作業目標にします。そのうえで、中間指標が3か月続けて外れたら打ち手を見直す、という取り決めを入れておけば十分機能します。

逆に、何の前提も聞かずに「月商◯倍にします」と言い切る提案には注意してください。前提を聞かずに出した数字は、根拠が無いか、副作用を説明していないかのどちらかです。

月次の報告で目標をどう確かめるか

目標を置いても、毎月の報告で確かめなければ意味がありません。月次の報告では次の順で見ます。

  1. 作業目標が守られたか:約束した作業が実施されたか。されていなければ理由
  2. 中間指標が範囲内か:TACOS・ACOS・粗利率が上限・下限の内側か
  3. 結果目標に近づいているか:貢献利益や売上の推移。前月比より前年同月比や3か月平均で見る
  4. 来月の打ち手:外れた指標に対して何をするか

報告書の数字の読み方は代行のレポートの見方で5つの数字に絞って書いています。報告が「インプレッションが増えました」「クリック数が伸びました」だけで終わっている場合は、それが結果目標にどうつながるのかを聞いてください。

当社は2019年からAmazonの支援をしていて、これまでに30ブランド・300商品ほどを見てきました。目標を決めるときは、まず損益分岐ACOSと1個あたり利益を一緒に出すところから始めています。支援の範囲はAmazon運用代行の内容に公開しています。

よくある質問

代行会社に売上の目標を約束させることはできますか。 約束の形にすることはできますが、売上は在庫・価格・競合の動きにも左右されるため、代行会社だけで実現できる数字ではありません。売上は「目指す数字」として共有し、約束の対象は広告ACOSの上限や作業の実施など、代行側がコントロールできる範囲に置くほうが運用しやすくなります。

目標はいつ見直せばいいですか。 契約から3か月目に一度見直す日を決めておくのがおすすめです。広告は設定を変えてから数字が動くまで数週間かかるため、1〜2か月で判断すると早すぎます。逆に半年以上見直さないと、外れた目標のまま運用が続きます。

利益を目標にしたいのですが、原価を代行会社に教えるのは不安です。 原価そのものを渡さず、1個あたりの「広告費を引く前の利益」だけを共有する方法があります。代行会社はその数字があれば損益分岐ACOSを計算でき、利益を意識した運用ができます。原価が変わったときは、その数字だけを更新して伝えます。

目標を達成できなかったら返金してもらえますか。 契約の定めによります。多くの契約は作業に対する報酬なので、結果が出なかったことだけを理由に返金されることは通常ありません。結果に連動させたいなら、成果報酬の部分をどう定義するかを契約前に文書で決めてください。

まとめ

  • 目標の数字で代行側の打ち手が変わる。売上なら広告費が増え、ACOSなら広告が絞られる
  • 1つの数字だけを約束にせず、「主に追う数字」と「下回ってはいけない線」を組み合わせる
  • 目標は結果・中間指標・作業の3段で組み、上から下へつながりを説明できるようにする
  • 主に追う数字は商品の段階で変える。立ち上げは広告経由売上、成長はTACOS、成熟は貢献利益
  • 代行会社の提案を受ける前に、欲しい利益から必要な売上と広告費を自社で逆算しておく
  • 数字の定義、見直しの時期、代行側の責任範囲外の要因を契約書に書く

自社の利益の構造が分かれば、代行会社と話す目標の数字は自社で出せます。どこから手を付けるか決められない場合は、無料の運用診断で広告・商品ページ・在庫のどこが弱いかを整理してから相談してください。目標の置き方そのものを一緒に考えたい場合はお問い合わせからどうぞ。