「代行に払っている月額を自社に回せば、その分だけ利益が増えるのではないか」。内製化の話は、たいていここから始まります。計算としては正しく見えます。ところが実際に戻してみると、数か月で数字が落ち、結局また外に出すという往復が起きることがあります。
原因は費用の比べ方を間違えていることと、戻す順番を決めずに一度に全部を引き取ってしまうことです。
この記事では、Amazonの運用を自社に戻すかどうかを決める前に確かめること、費用を同じ土俵で比べる方法、そして工程を分けて順番に移す進め方を書きます。外注のままにするか自社でやるかの大枠の比較は自社でやるか代行に出すかにまとめているので、まだ外注していない段階ならそちらを先に読んでください。
内製化を決める前に確かめる3つの前提
戻せるかどうかは、費用ではなく人と時間で決まります。確かめるのは次の3つです。
1つめは、担当者を置けるか。 兼務でも構いませんが、「手が空いたときにやる」では続きません。広告の数字は毎週見ないと崩れます。週に何時間をこの仕事に充てるかを、先に決めてください。
2つめは、その人が辞めても回るか。 一人の担当者に全部が乗っていると、その人が抜けた瞬間に止まります。手順を書き残す前提で始められるかどうかを見てください。
3つめは、判断する人がいるか。 操作は覚えられます。難しいのは「この語を止めるか」「入札をどこまで上げるか」の判断です。判断の基準を自社で持てないうちに戻すと、操作はできるのに数字が動かない状態になります。
この3つのうち2つ以上が怪しいなら、いま戻すのは早いです。代行を続けながら、作業の一部だけを引き取って練習する形から始めてください。
| 確かめること | 満たしている状態 | 満たしていないときの対応 |
|---|---|---|
| 担当者と時間 | 週の作業時間が決まっている | 時間を確保してから着手する |
| 属人化への備え | 手順書を残す前提がある | まず手順書の作成から代行に依頼する |
| 判断の基準 | 目標ACOSと粗利率を自社で説明できる | 基準づくりを先に済ませる |
目標の置き方が曖昧なままなら、ACOSの目標値の決め方を先に読んで、自社の損益分岐を出しておいてください。ここが決まっていないと、誰がやっても判断ができません。
費用は月額だけで比べない
内製化の判断で一番多い間違いが、代行の月額と「0円」を比べてしまうことです。自社でやっても費用はかかります。かかる場所が人件費に移るだけです。
同じ土俵に乗せるために、次の項目を足します。
| 費目 | 代行に出す場合 | 自社に戻す場合 |
|---|---|---|
| 月額・手数料 | 契約額 | なし |
| 担当者の人件費 | なし | 作業時間 × 時間単価 |
| 教育・立ち上げ | なし | 最初の数か月に集中して発生 |
| ツール・データ取得 | 含まれることが多い | 自社で契約する場合は別途 |
| 判断の質による差 | 代行の力量に依存 | 担当者の習熟に依存 |
| 引き継ぎ・手順書 | 解約時に発生 | 継続的に更新が必要 |
人件費の出し方は単純です。仮に月給40万円の担当者で、会社負担分を含めた月あたりの費用が52万円、月の稼働が160時間だとすると、時間単価は3,250円です。この担当者がAmazonの運用に週10時間、月に約43時間を充てるとすると、43時間 × 3,250円 = 約14万円が毎月かかります。
この14万円に、立ち上げ期の学習時間が上乗せされます。最初の3か月は倍の時間がかかると見ておくのが現実的です。仮に3か月だけ月86時間かかるなら、その期間は月28万円ほどになります。
| 期間 | 自社の月あたり費用(例) | 見ておくこと |
|---|---|---|
| 1〜3か月目 | 約28万円 | 学習と引き継ぎで工数が倍になる |
| 4〜6か月目 | 約20万円 | 慣れてくるが手順書の整備が残る |
| 7か月目以降 | 約14万円 | 定常運用。属人化の対策を入れる |
ここに挙げた金額はすべて仮に置いた数字です。時間単価も稼働時間も会社ごとに違うので、自社の実数に置き換えて計算してください。時間の見積もりが分からない場合は、1か月だけ実際に記録を取る方法があります。代行が動いている横で、同じ画面を開いて数字を確認する作業に何分かかったかを書き留めるだけです。頭のなかで見積もると、たいてい少なく出ます。粗利からどこまで出せるかは利益シミュレーターで先に確認できます。代行側の料金の型と範囲の違いは運用代行の費用と選び方と料金のページにまとめています。
比べるときに見落としがちなのが、数字が落ちたときの損失です。月額20万円を浮かせても、売上が月100万円落ちて粗利率が30%なら、30万円の粗利が消えます。浮かせた額より大きくなることがあるので、費用だけでなく「落ちたときいくら失うか」も並べて置いてください。
一度に全部を戻さない。工程を分けて順番に移す
内製化が失敗するもう1つの原因が、解約日を決めてから全部をまとめて引き取ることです。作業の性質ごとに難しさが違うので、順番を分けます。
| 段階 | 戻す作業 | 難しさ | 目安の期間 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 数字の確認とレポートの作成 | 低い。手順を覚えれば回る | 1か月 |
| 第2段階 | 除外キーワードの設定、在庫の発注管理 | 低め。基準が決まれば判断できる | 1〜2か月 |
| 第3段階 | 入札の調整、予算配分 | 中。判断の経験が要る | 2〜3か月 |
| 第4段階 | 商品ページの改善、画像の設計 | 中。制作の手が別に要る | 2〜3か月 |
| 第5段階 | キャンペーンの設計、新商品の立ち上げ | 高い。全体像の理解が要る | 3か月以上 |
第1段階から順に、1段階ずつ移します。前の段階が2か月続けて回ってから次に進む、という進め方が安全です。全部を戻すまでに半年から1年かかりますが、途中で止まっても被害が限定されます。
第1段階でやるのは、数字を見て記録することだけです。代行が作業している間に、同じ画面を自社でも開いて、同じ数字を記録します。ここで代行が何を見て判断しているのかが分かるようになります。レポートの読み方は広告レポートの見方にまとめています。
第2段階の除外設定は、基準さえ決まれば判断が分かれにくい作業です。クリックが一定数あって注文が0の語を外す、という単純な形から始められます。除外キーワードの決め方の基準をそのまま社内の手順にしてください。
第3段階の入札調整から、判断の質が数字に出ます。ここは週1回、対象を絞って動かす形で練習します。一度に何十個も動かすと、効いたかどうかが分かりません。入札額の決め方を手順書の土台にするとよいです。
第4段階と第5段階は、社内に制作と設計の手があるかで難易度が変わります。広告の運用だけ内製化して、商品ページの制作は外に出したままという分け方も現実的です。全部を自社に戻すことが目的ではありません。
引き継ぎで抜けやすいもの
解約が決まってから慌てると、情報が揃わないまま終わります。引き取る側から先に依頼してください。契約書側の確認点は代行の契約前チェックと解約と引き継ぎにまとめています。
| 引き継ぐもの | 具体的に何を | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| アカウントの権限 | 広告・セラーセントラルの管理権限と、代行側アカウントの外し方 | 操作できない。外し忘れで権限が残る |
| キャンペーンの設計意図 | なぜこの構造にしたか。どの語をどこに置いたか | 触れなくなる。壊して戻せなくなる |
| 除外キーワードの一覧 | 現在の除外語と、外した理由 | 外した語をまた拾い直して費用が戻る |
| 過去の数字 | 少なくとも12か月分のレポート | 季節の山谷が分からず発注を誤る |
| 試したことの記録 | うまくいかなかった施策と理由 | 同じ失敗を繰り返す |
| 制作データ | 画像の元データ、A+の素材、文言の版 | 作り直しになる。費用が発生する |
| 外部の取引先 | 撮影・制作を外注していた場合の連絡先 | 同じ品質で作れなくなる |
このなかで特に忘れられやすいのが画像の元データと試したことの記録です。完成した画像はAmazon上にありますが、編集できる元データがないと、文言を1行直すだけでも作り直しになります。契約が生きているうちに、まとめて受け取っておいてください。
権限の扱いも先に確認します。代行側のアカウントを外すタイミングを決めずに解約日を迎えると、外部から操作できる状態が残ることがあります。解約日の前に、誰の権限をいつ外すかを書き出しておきます。
戻したあとに続かなくなるパターンと、外に戻す判断
内製化したあとで崩れるのは、だいたい次の3パターンです。
1つめは、担当者の異動と退職。 一人に集約していると、そこで止まります。手順書を作り、月に一度は別の人が同じ作業をやってみる形にしておくと、抜けたときの落差が小さくなります。
2つめは、繁忙期に見る時間がなくなること。 通常期は回っていたのに、セールや年末で他の仕事が増えると広告が放置されます。見られない時期が来ることを前提に、その期間だけスポットで外に出すという選択もあります。
3つめは、判断が固まってしまうこと。 同じ人が同じやり方を続けると、数字が横ばいでも「こんなものだ」と思うようになります。半年に一度は外の目を入れて、設定を見直すきっかけを作ってください。半期での点検の観点は半期ごとの広告の点検にまとめています。
外に戻す判断の基準も、先に決めておくと迷いません。
| 状態 | 目安 | 判断 |
|---|---|---|
| 作業が回っていない | 週の作業が2週続けて飛んだ | 一部だけスポットで外に出す |
| 数字が落ちている | 3か月続けて売上とACOSの両方が悪化 | 原因を切り分けたうえで相談する |
| 新しいことに手が回らない | 半年、新商品の立ち上げが止まっている | 立ち上げだけ外に出す |
| 人が抜けた | 引き継ぎ相手がいない | 一時的に全部を外に戻す |
「内製化したのだから外には頼まない」と決める必要はありません。定常運用は自社、立ち上げと点検は外のような分け方のほうが、続けやすいことが多いです。どこまでを外に出せるかは運用代行とはとAmazon運用代行に範囲を書いています。
いまの体制で戻せる段階かどうか判断がつかない場合は、無料診断で現状を整理するところから始められます。
よくある質問
代行の契約を切ってから内製化の準備を始めても間に合いますか。 間に合わないことが多いです。引き継ぎの資料は、契約が生きている間のほうが揃います。順番としては、まず第1段階の「数字を見て記録する」を代行と並行して1〜2か月続け、自社で数字が読めるようになってから解約の相談をしてください。解約の通知に予告期間が定められている契約もあるので、契約書の条項を先に確認します。
広告だけ内製化して、商品ページは代行に残す形でもよいですか。 現実的な分け方です。広告は毎週の作業が中心で手順化しやすく、商品ページの制作は撮影やデザインの手が別に要ります。社内に制作の体制がないなら、広告だけ戻すほうが続きます。逆に社内にデザイナーがいるなら、ページ側から戻すほうが早いこともあります。自社に何の手があるかで決めてください。
内製化すると数字はどのくらい落ちますか。 落ちるとも落ちないとも言えません。代行がやっていたことの中身と、引き取る側の習熟度で変わるためです。備え方としては、落ちたときにいくら失うかを先に計算しておくことです。仮に月商500万円で粗利率30%の商品群なら、売上が1割落ちると粗利が15万円減ります。浮かせる月額がそれより小さいなら、戻す意味は薄くなります。段階を分けて移すのは、この落差を小さくするためでもあります。
社内に経験者がいません。何から覚えればよいですか。 操作より先に、数字の意味から入ってください。広告費・広告経由の売上・ACOS・全体の売上の4つが読めれば、判断の8割は組み立てられます。操作を覚えても、目標がないと動かす方向が決まりません。目標の置き方はACOSの目標値の決め方、全体への影響の見方は広告の効果測定を順に読むと、判断の土台ができます。
まとめ
- 戻せるかどうかは費用ではなく、担当者・属人化への備え・判断の基準の3つで決まる
- 代行の月額と0円を比べない。自社の人件費と学習期間を足して同じ土俵に乗せる
- 立ち上げの3か月は工数が倍になると見ておく
- 数字が落ちたときの粗利の減少額も、浮かせる額と並べて置く
- 一度に全部を戻さない。数字の確認 → 除外と発注 → 入札 → ページ → 設計の順に1段階ずつ
- 引き継ぎで抜けやすいのは画像の元データと試したことの記録と権限の外し方
- 全部を自社でやることが目的ではない。定常は自社、立ち上げと点検は外という分け方でよい
まずは解約日を決める前に、自社の時間単価と週の作業時間を書き出して、月あたりいくらかかるかを出してください。そこが代行の月額を上回るなら、急いで戻す理由はありません。段階の分け方や引き継ぎの範囲から相談したい場合は、ご相談からお知らせください。
